エンジニアがフリーランスになる手順 | 辞める前にやること・保険と税金の実務
「単価70万円」という数字を見ると、会社員の月給と比べて一瞬くらっとします。でも単価と手取りはまったく別物で、ここを勘違いしたまま独立すると、1年目の確定申告で青ざめることになります。
この記事では、フリーランス独立を①退職前 ②退職直後 ③独立後の3段階に分け、それぞれで何をするかを実務ベースで整理します。特に健康保険の選択と単価から手取りを逆算する計算は、判断を左右する部分なので具体的に扱います。
独立できる経験の目安
ただし「年数」より「一人で任された範囲」が見られる
案件の募集要項には「実務3年以上」と書かれることが多いですが、実際に評価されるのは年数そのものではありません。設計から実装、テスト、リリースまで一人で回した経験があるか。ここが判断軸です。
逆に、指示された機能を実装するだけの経験が3年あっても、参画後に苦労します。フリーランスは教えてもらう立場ではなく、即戦力として単価分の成果を出す立場だからです。「入って3日で状況を把握し、1週間で戦力になる」ことが期待されます。
経験が浅い段階での独立が難しい理由と、案件の見極め方はフリーランスエージェントの選び方で詳しく書いています。
①退職前にやること
順番を間違えると取り返しがつかない項目があります。会社員の肩書きは、辞めた瞬間に使えなくなる資産だと考えてください。
- 案件の目処を立てる——これが最優先。エージェントに登録し、自分の経歴で参画できる案件が実際にあるかを確認します。「辞めてから探す」は最も危険な順番です
- 与信が必要な手続きを済ませる——クレジットカードの作成、住宅ローン、賃貸契約、カードの限度額引き上げ。フリーランス1年目は所得証明がないため、審査が通りにくくなります。使う予定があるものは在職中に
- 生活費6ヶ月分の現金を確保——初回の報酬入金は、参画してから1〜2ヶ月後になるのが一般的です。案件が途切れる期間も想定して、多めに持っておきます
- 就業規則で競業避止・副業規定を確認——退職後に前職の顧客と直接取引する場合など、制限がかかることがあります
- 健康保険の見積もりを両方取る——任意継続の金額は在職中に健保組合へ、国民健康保険の金額は市区町村へ。任意継続の申請には期限があるため、退職前の確認が必須です
- 有給を消化する——当然の権利です。消化期間中に開業準備を進められます
独立の可否は、実際に参画できる案件があるかで決まります。在職中でも登録・相談は可能なので、まず自分の経歴で通る単価を確かめるのが確実です
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②退職直後の手続き
| 手続き | 期限の目安 | 提出先 |
|---|---|---|
| 健康保険(任意継続) | 退職日の翌日から20日以内 | 加入していた健保組合・協会けんぽ |
| 健康保険(国民健康保険) | 退職日の翌日から14日以内 | 市区町村 |
| 国民年金への切替 | 退職日の翌日から14日以内 | 市区町村 |
| 開業届 | 事業開始から1ヶ月以内 | 税務署 |
| 青色申告承認申請書 | 事業開始から2ヶ月以内 | 税務署 |
任意継続の20日は絶対に落とせません。1日でも過ぎると選択肢が国民健康保険だけになります。
そして青色申告承認申請書は、開業届と同時に必ず出してください。これを出し忘れると白色申告になり、最大65万円の青色申告特別控除が受けられません。書類1枚の提出漏れで、税額が十数万円変わることもあります。開業届と青色申告承認申請書はセットで、同じ日に出すものだと覚えてしまうのが安全です。
健康保険はどちらを選ぶか
| 項目 | 任意継続 | 国民健康保険 |
|---|---|---|
| 保険料の決まり方 | 在職時の標準報酬月額ベース。会社負担分も自己負担になる(上限あり) | 前年の所得ベース。自治体により計算が異なる |
| 加入できる期間 | 最長2年 | 制限なし |
| 扶養の扱い | 被扶養者の仕組みがあり、家族を扶養に入れられる | 家族も各自が被保険者。人数分の負担が発生 |
| 1年目の傾向 | 会社員時代の給与水準で決まる | 前年の給与所得で決まるため高くなりやすい |
| 2年目以降 | — | 独立後の所得次第で下がることもある |
結論としては「両方の金額を出して比べる」以外にありません。特に扶養家族がいる人は任意継続が有利になりやすい傾向があります。国民健康保険には扶養という考え方がなく、家族の人数分だけ保険料がかかるためです。
また、職種によっては文芸美術国民健康保険組合のような業種別の健保組合に加入できる場合があり、所得が高いほど有利になることがあります。加入要件があるので、該当しそうなら調べる価値があります。
単価から手取りを逆算する
ここが独立判断の核心です。単価60万円は、月給60万円ではありません。
単価60万円(年商720万円)のケースを、ざっくり追ってみます。
- 年商 720万円
- 経費 −100万円前後(PC、通信費、書籍、家賃の按分、交通費など)
- 所得 約620万円 → ここから青色申告特別控除65万円などを差し引く
- 社会保険料 −100万円前後(国民健康保険+国民年金。全額自己負担)
- 所得税・住民税・個人事業税 −100万円前後
- 手取りの目安 年450〜500万円 → 月40万円前後
数字は経費や自治体、扶養の有無で大きく動くので目安ですが、単価の3分の1前後が引かれるという感覚は外れません。
それでも独立にメリットがあるのは、単価が実力と交渉で上がっていく点と、経費と控除を自分で設計できる点です。会社員の昇給ペースとは伸び方が違います。
③独立後:税金と経費の実務
- 会計ソフトを最初から入れる——freee、マネーフォワード、やよいの青色申告など。65万円控除には複式簿記とe-Taxが必要で、手作業では現実的ではありません。開業初日に導入するのが正解です
- 事業用の口座とカードを分ける——生活費と混ざると記帳が地獄になります。これも開業と同時に
- 経費になるもの——PC・モニタ・書籍・技術系サブスク・通信費・自宅家賃と光熱費の按分・打ち合わせの交通費など。按分は「事業に使っている割合」を説明できる根拠を持っておくのが原則です
- インボイス制度への対応——取引先が課税事業者の場合、登録を求められることがあります。登録すると消費税の納税義務が生じるため、案件の条件と合わせて判断してください
- 予定納税と住民税に備える——独立1年目の後半から2年目は、前年の所得に基づく住民税と、所得税の予定納税が重なります。手元資金を残しておかないと詰みます
特に最後の項目は、独立2年目のフリーランスがつまずく定番です。売上の3割は「自分の金ではない」と考えて別口座に分けておくくらいが安全です。
見落としやすいリスク
- 案件が切れる期間——契約は3ヶ月更新が主流。更新されない可能性は常にあります
- 働けない期間の補償がない——会社員の傷病手当金にあたるものがありません。就業不能に備える保険や、所得補償の仕組みを検討する価値があります
- スキルが陳腐化する——目の前の案件をこなすだけだと、単価が上がらないまま数年経ちます。学習時間を確保する意識が必要です
- 常駐案件は会社員と働き方が変わらないことも——「自由になれる」と期待して独立すると、拘束時間はほぼ同じで責任だけ増えた、と感じることがあります
- 戻るときのハードル——正社員に戻ること自体は可能ですが、ブランクや案件内容によっては説明が必要になります
よくある質問
Q. 実務経験は何年必要ですか?
A. 目安は3年、エージェント経由なら2年から選択肢が出ます。年数より「一人で任された範囲」が評価されます。
Q. 辞める前に何をすべきですか?
A. 案件の目処を立てること、クレジットカードやローンなど与信が必要な手続きを済ませること、生活費6ヶ月分を確保することです。
Q. 健康保険はどちらが得ですか?
A. 人によります。両方見積もりを取って比較してください。扶養家族がいる場合は任意継続が有利になりやすい傾向があります。
Q. 単価60万円の手取りは?
A. 経費・社会保険料・税金を引くと月40万円前後が目安です。会社員の額面と比べるなら1.3〜1.5倍の単価で同等と考えてください。
Q. 青色申告は必須ですか?
A. 必須ではありませんが、最大65万円の特別控除があるため実質的にやらない理由がありません。開業届と同時に青色申告承認申請書を出してください。
まとめ
独立の手順は①案件の目処を立てて与信手続きを済ませてから辞める ②任意継続20日・青色申告承認申請2ヶ月の期限を落とさない ③売上の3割は納税用に分けておく。この3点を外さなければ、大きな事故は起きません。
そして判断の基準は「会社員の額面の1.3〜1.5倍の単価が取れるか」。ここを下回るなら、急いで独立するより実務で任される範囲を広げるほうが、結果的に高い単価につながります。
案件の探し方と単価交渉はフリーランスエージェントの選び方、正社員での転職と並べて考えたい人は転職エージェント比較もあわせてどうぞ。